今さら読んだ西加奈子「サラバ!」の感想。というか素晴らしすぎて打ち震えていることをただ伝えたい
こんばんは★
西加奈子さんが直木賞を受賞した作品「サラバ!」を今さら読みました。西加奈子さんはもともと好きな作家さんでサラバもずっと読みたいなと思っていたのですが、なにせあのボリューム。単行本にしたら上・中・下。
読む時間ないよ~と思っていたのですが、実際読んでみたら
あ っ と 言 う 間。というか面白過ぎて寝不足しても悔いなし。
久々に感動に打ち震えました。
今さら感はすごいですが、少しでも誰かと分かち合いたい&この感動を覚えておきたくて感想を綴ってみようと思いました。
引用元:小学館
まず、サラバ!がどんな話かというと・・・。
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父の仕事で赴任していたイランで生まれた僕=歩(あゆむ)。美しく気の強い母。ハンサムで穏やかな人柄の父。そして強烈な個性を持った姉。そんな家族に囲まれた歩の、産まれてから37歳になるまでの物語。
幼いころから問題児である姉、姉に歩み寄るには「自分」が強すぎた母、その間でオロオロする父。穏やかとは言えない環境の中で自分を守るために、歩は静かに当たり障りなく、空気のように周りになじむ術を身につけていったのだった。
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勘のいい方はお気づきかもしれません。
そう、文庫本の裏表紙っぽい文章テイストにしてみたのです!!(どうでもいい)
まあこんな感じが概要です。
しかし西加奈子さんの作品は読んだことない!という西加奈子バージンの方や、サラバの内容もっと知りたい~~!!という方のために、超端折りつつですが、もう少し詳しくストーリーを紹介していきます。
(大いにネタバレ含みます。というかネタバレ以外の何物でもないです)
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美しい母とハンサムな父から生まれた姉は決して可愛らしいとは言えない容姿。一方で歩はと言えば、くりくりした目の誰から見ても美少年。
姉は手のかかる子で、自我も強く、母の思い通りにはならない。しかし母は、自分の思い描く「素直でかわいい娘」でいてほしかった。その母の想いに反発するように、姉はますます問題児になっていく。問題児と言っても不良になるとかそういうものではなく、自分の殻に閉じこもってしまうタイプの。母と姉の間には深い溝ができていた。
歩が産まれてからほどなくしてイランから日本に戻った家族。
姉は小学校でもその強すぎる個性と不吉さを感じさせる(可愛らしさとは無縁の)容姿で他の子どもたちから疎ましがられ、いじめにあう。一方で歩は、クラスの人間関係や空気を読み、目立ちすぎず、かといって暗くもない安定感のあるポジションにつくことに成功。
そんな歩のネックはやはり姉。あの良くない意味で有名な姉の弟であることで、自分にまで被害が及ばないかとビクビクして、姉を憎らしく思う。
小学校生活にもすっかり馴染んだころ、一家は父の赴任先であるエジプトへ行くことに。ここで母と姉の関係は少しだけ良くなり、家族の黄金時代ともいえる時を過ごす。また歩はここでヤコブという少年に出会い、親友という言葉では片づけられないほど深く心を通わせる。しかし、父と母の確執によってその平和も崩壊。
結局父と母は離婚して、また日本での生活が始まる。僕や姉に何の説明もせず逃げるようにしていなくなった父、その父が稼ぐ金で堂々と生活をし新しい恋人をつくる母。さらに姉は日本での学校生活がやはりうまくいかず、心のよりどころを探すように宗教的なものにハマっていく。歩にとって姉はますます身内だと思いたくない存在になっていった。
家族に振り回され続けた歩は東京の大学へ進学し、ようやく家族と切り離された自分の生活を始める。
甘いマスクを活用してさんざん女の子と遊び、その後には美しい恋人ができたり、就職はしなかったもののアルバイト先で雑誌のコラムを書いたことがきっかけでフリーライターとして活躍するようになったりと、成功と呼べる暮らしをするように。
一方で家族はというと、父が出家を宣言、母は再婚し父が買った家に新夫と堂々と暮らす。さらに姉は顔を晒さない不気味な路上アーティストとしてネット上で話題に。それが自分の姉だということを周囲に知られたくない歩は、また姉が自分の生活を脅かしはじめたと恐怖と怒りを感じる。
姉や両親への葛藤を抱えきれなくなった歩は、美しく聡明で優しい彼女に全てを話す。「辛かったね」と歩が望むべき言葉をかけてくれた彼女だったが、その後彼女は自分のキャリア(彼女はカメラマンだった)を高めたいがために、姉を撮らせてほしいと歩にしつこく迫るように。
彼女と歩の関係は悪くなり別れたが、それでも元彼女はどうにかして姉にコンタクトを取り、その素顔を撮った写真は雑誌に掲載される。一部では神格化していた謎のアーティストは、ガリガリで男物のスーツを肌に直で着た、不気味な風貌の女性だった。たちまち姉はネットで罵詈雑言を浴びることになり、活動をあっけなく終える。そして姉は絶大な信頼を寄せていた「矢田のおばちゃん」の死をきっかけに、放蕩の旅に出る。
30歳になっていた歩はストレスか体質によるものか、髪が抜け始める。ずっと美少年で美青年だった歩。子供の頃から可愛いと言われ続け、女の子に騒がれ続けた学生時代。当然仕事にもプラスになった。安定の容姿がここにきて崩れたのだ。
劣等感の塊となった歩は仕事も恋も友情も何もかもうまくいかなくなり、ほとんど無職のフリーター状態になる。
そこで放蕩の旅に出ていた姉が帰国するのだが・・・。
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はいここまで~~~!!!!
気になるでしょ?????読んでほしい・・・なぜならものすごく面白いから・・・本当に。
で、こんなストーリー紹介で万が一ですが「読んでみよう!」と思ってくださった方がいたら、ここから先読まないでいただければと思います。
帰国した姉は非常に安定した精神状態で、つまり「まともになって」帰ってくるんです。しかも結婚までして(!)。
その姉から、歩は指摘されるわけです。「揺れてる」と。芯がないと。自分が信じられるものを見つけなさい、と言われるんですね。
あれだけ自分の人生を邪魔してきた姉にそんなことを言われても急にハイそうですかと受け入れられるはずもなく反発する歩。そりゃそうだ。
歩は周囲の空気を読んで溶け込みうまくやってきたつもりだった。そしてそれは、何かにつけてトラブルを起こす家族とバランスをとるために身につけた術でもあった。
しかし同時に、「自分はこうなりたい!」ではなく、自分と人(家族)を比べ「こうはならないように」と生きてきた、ということでもあった。確固たる「自分」がない。それは容姿の崩れで簡単に崩壊してしまうような生き方だったのです。
姉は実は弟のことを深く深く想っていて、自分や誰かと比べるのではなく、歩は歩の人生を生きてほしいと切に願ってるのでした。
もうね、ここからの歩の再生への過程が本当に感動しました。
まず、姉に対してずっと傍観の姿勢を貫いてきた歩が、姉に自分の人生を生きろと言われ、誰のせいだと思ってるんじゃい!!と初めて怒りをぶつけるところが良かったです。
怒りながらも、歩が本当に家族を憎んでいるわけじゃないことがわかる。むしろ、本当は理解したくて、バラバラになったことも悲しくて、歩なりに全員を愛しているわけで。
そしてずっと歩の心に影を落とし続けていた両親の離婚も、出家した父に話を聞くことで、両親には両親の人生と考え方があることに気付くわけです。そして自分のヒーローであるヤコブとの再会。このときの歩の心情は私なんぞには言葉であらわすことができませんゆえぜひ読んでいただきたいところ。
最終的には歩もしっかり前を向き、家族は姉を中心に再生しハッピーエンドなのですが・・・。
もう本当に心にグッときました泣きました。
フト下巻の帯を見ると「これは、あなたを魂ごと持っていく物語 解説 又吉直樹」と書かれていましたが(又吉さんは西さんの大ファン)、本当にそれに尽きます。
魂ごと持っていく物語。こんな小説にあとどれくらい出会えるものでしょうか。
ってストーリーばっかで感想らしい感想をまったく述べていないことに気付いたので、最後に1つだけそれっぽいことを。
この物語では芸術を愛する人が数多く登場します。歩もそうだし、歩の親友である須玖(すぐ)・鴻上(こうがみ)、叔母の夏枝も、音楽や映画を語らせたら止まらない人たちなのです。
私はまったく芸術に精通していませんが、音楽や本には激しく心を揺さぶられることが多々あります。
美しい音楽を聴いたときの、何とも言えない神聖な気持ちというか全能感でいっぱいになるような感覚が好きだし、一瞬でまったく違う世界にトリップできる小説も最高だと思います。
しかしぐちゃぐちゃに精神状態を崩してしまった20歳のころに「なんで自分はこうなの?もしかして感受性が強いということ?」という思いがムクムクと顔を出し、
感受性が強い=普通に生きていくことが難しい系=感受性の強さは悪
という図式が出来上がってしまったんです。
それからずっと、感受性が強いなんて、特別に芸術的な才能がない限り生きづらいだけでいいことなんか何もないと思ってきました。
心優しい友人が、「感受性が豊かなぶん辛いことを経験してきたと思うけど、それって楽しいことも人一倍楽しめるはず」と言ってくれたこともありました。でも正直「いや別に人一倍楽しくなくていいから普通に生きたいわ」と思っていました。
私って感受性が豊かで他の人と違ってタイヘン~なんてことが言いたいのではなく、切実に、繊細な神経などいらないからとにかくタフな精神が欲しかったのです。
そんなわけで芸術的なものよりも実際的なもの(仕事スキルとか)にずっと重点を置いてきたので、音楽とか読書からは離れていました。あと、これらにどっぷり浸かったあとは現実世界に戻ってくるのがキツイというのもありました。
でも最近、歳なのかもしれないですけど、なんとなく虚しさを感じるようになって。昔は趣味を聞かれたら読書と音楽鑑賞と答えていたけど、今は何もない。かといって仕事が楽しくて夢中なわけでもないし、ただただ目の前のことを慌ただしくこなして生きているだけ。
まあ子供が手がかかる時期なので慌ただしいのは当たり前ですが、あまりにも心にゆとりがなくて、子供の成長を楽しむより「はやくはやくはやく大きくなって手がかからなくなってくれ~~~~!!!」としか思わないようになって。
なんか違うなと・・・。というか、シンプルに楽 し く な い 。
それで仕事のやり方も含め、徐々に生活を変えていこうとしているところではあるんですが、同時に遠ざけてきた音楽や読書も大事にしていきたいと思って。
相変わらず浸かると現実世界との切り替えが辛いんですが(厨二病)、それでもやっぱり芸術に触れることは喜びです。魂ふるえます。
サラバ!を読んでそれを再確認したとともに、素晴らしい本にこれからもたくさん出会いたい、と思うのでした。
あ、やっぱり書籍の感想じゃなかった(笑)
《おわり》